インターステラー

 

インターステラーを見ました。2014年11月23日、ユナイテッド・シネマとしまえんにて、IMAX2D版を。

http://wwws.warnerbros.co.jp/interstellar/


f:id:chillvill:20141230020241j:plain

フォロウィングメメントインソムニアバットマンビギンズ、プレステージダークナイトインセプションダークナイトライジングを生み出したイギリスの貴公子(?)・クリストファーノーラン監督の最新作です。

その人の監督作を全て観賞した映画監督って数えるほどしかいませんけど、ノーランはそんな監督のうちの1人ですし、チルの8歳年上だからか、映画への希望を託せる世代の映画作家なんです。

そんなノーランの最新作『インターステラー』は宇宙に新たな物語のネタを求める意欲作で、危機的状況に陥った地球を救うために宇宙へ旅立つ人類の物語なのです。日本人としては『宇宙戦艦ヤマト』を連想しなくもないですね。ノーランはヤマトを知らないそうですが。

予告編は、主演のマシューマコノヒーと娘の別離を重点的に描いたエモーショナルな構成になっており、今の映画界がマコノヒーに大きな期待を寄せている事が分かります。といっても海外版の予告編がどんな構成かは知りませんけど。

予告編で「ベタな感動物語ですな」と予測した観客の期待値ハードルが低くなってるのが良い方向に転がってるのかもしれません。



映画の冒頭は、老人たちがかつて若かりし頃に体験した食糧難について回顧するインタビューの場面を描いています。この描写は後の伏線になっていてドキッとさせられるのですが、このシーンには元ネタとなる実際のインタビュー映像があるそうです。

マシューマコノヒー演じる主人公クーパーは息子トムと娘マーフィ、義理の父ドナルドと共に生活している。砂嵐の影響でエンターテイメントやテクノロジーは失われ、人々は明日の糧を得るのに必死な毎日を送っている。

ある日、二人の子供と共にドライブ(目的は失念)していると、空を飛び続けるインドの無人偵察機を発見(インドってところがSF的)。車で追いかけ、ハッキングした上で回収することに成功する。このシークエンスによってクーパーの科学的知識が観客に提示される。事前にあらすじを読んでいる観客にとって、クーパーが元宇宙飛行士(実地任務は未経験?)であるという情報は既に把握しているところなのですが、こういう自然な表現でそれを伝えられるのは何気に凄い。そして序盤の段階で、高く生い茂る畑の中を4WD車両で突き抜けるというダイナミックな映像体験を盛り込めるのは流石ノーラン。

無人偵察機を入手した後は娘の学校へ行って担任教師と面談。このシークェンスでは「科学技術というものが二の次・ないがしろにされている現状」「ただものでないマーフィの才能」を伝えています。「アポロ計画はプロパガンダ目的の捏造だった」という説がこの時代の常識になっているのです。そしてそんな時代の中でジレンマを抱きながら生きているクーパー。

その後、「非科学的な何者か」が起こした重力異常によって地図上のとあるポイントに誘導されるクーパー。そこに辿り着くと強烈な光を浴びせられて気絶。目覚めると目の前には美女(アン・ハサウェイ)。そこで彼女の父親でもあり、かつての恩師でもあるブランド教授(マイケル・ケイン)と再会。教授は「ここはNASA本部だ」と告げる。

この展開、燃えるじゃないですか! 絶望の中に見出す希望。NASA本部に辿り着くだけでドラマになる、そんなシチュエーションを周到に準備する。素晴らしい。

NASAスタッフはクーパーがなぜこの場に辿り着けたのか疑問を持つものの、宇宙飛行士としての経験を持つクーパーに頼らざるを得ない。公の活動は出来なくなっていたNASAだったが、滅び行く地球に代わる新たな惑星の調査を続けていた。人類の未来は地球を諦めること以外に無かった。

クーパーは考えるまでもなく、どん詰まりの生活を捨てて人類の救世主になりたいと願った。しかし問題は家族。自活の出来ない2人の子供を義父に任せなければいけない。息子のトムは納得したものの、娘のマーフィはすねてしまい、クーパーの言葉に耳を貸さない。マーフィは「ほら、幽霊だって『STAY』って言ってる!行っちゃダメ!」と懇願するものの、クーパーは宇宙へ旅立つことを選ぶ。二度と子供たちに会えない事を覚悟して。

まあ、このシーンがググッと胸に迫るのはマシューマコノヒーの熱演があったからでしょう。もちろん子役の芝居も良いですが。今年のアカデミー賞主演男優賞を獲得したマコノヒーさんですが、もう2~3年は引っ張りだこでしょうね。アカデミー賞を獲る前まではインディーズ系の質素な作品を中心に出演していましたが…この人の芝居をハリウッドがほっとくわけない。

娘の慟哭を背に受けつつ、泣きながら我が家を発つクーパー。車を運転する姿にオーバーラップする、ロケット発射カウントダウンのアナウンス音声。こういう大胆なつなぎ方もいちいちカッコいい。

クーパーと共に地球を去るのは3人の科学者。アン・ハサウェイも同乗。そして2体の人工知能搭載ロボットTARSとCASEがクルーとして参加。

このロボットの存在が…効いてる! ガジェットとしてものすごく新鮮な挙動を見せるし、クルーたちを助けるサポート役としても頼れるのですが、それ以上にコメディリリーフとしての役割が大きい! ロボットのクセにジョークを連発し、間の良い笑いを生み続けて終盤まで大活躍! ただの硬い物語に終わらないのはこのロボットたちがいたからでしょう。

ちょっとロボットたちが美味しすぎる気がしないでもないですけど。

宇宙船エンデュアランスは、ワームホールをくぐりぬけて有望な惑星に辿り着いた3組の先行調査チームが送信する情報のうち、可能性が高いと思われるものを選んでその惑星を目指す必要がある。

ワームホールとは太陽系の宇宙と別の宇宙(恒星系?)を結ぶトンネルのようなもので、それを創り出したのも、人間とは別の意思を持った生命であると考えられる。この映画で、現代の実写映画ならではの"ワープ"描写が見られる感動も、現状の人類が宇宙に対する興味を失いつつあるからこそ輝くとも言えるでしょう。

最初の惑星に辿り着いたクルー。そこは浅い水深の海が視界のすべてを包み込む世界。発信機の信号を頼りにデータを回収しようとするが、そこに襲いかかるのが遠くに見える山々と思われたバカでかい津波。ここでアン・ハサウェイ演じるアメリアを救うのが、ロボットのCASE。ぎこちなく歩いていた彼が走りだす描写には、どんなに鈍感な人でもフレッシュな感動を覚えるでしょう。

CASEは頑張ったものの、アメリアと共に降り立ったドイルが波に飲まれてしまう。ドロップシップのエンジンが故障し、修理に時間がかかる…「早く直さないと次の津波が来てるぞ!」 この辺のスリル描写は流石ノーランです。ドッキドキの中でなんとか脱出成功。

第一の惑星はブラックホールの影響を受けていて、その惑星で過ごす1時間が7年間になるという、逆ウラシマ効果が発生。探索チームの帰りを待ち続けたロミリーは、23年もの年月を重力理論の研究に費やしていた…

なんだかんだ言ってこの辺の展開もやっぱりフレッシュで。こういうシークェンスに感動できるかどうかっていうのは、科学的な理論が理解できるできないって問題じゃなく、23年間もひたすら待ち続ける男の心情を想像したり、23年分の時間を使って何一つ得られなかった人間に去来する虚無感とかをイメージできるかどうかに掛かってると思うんですよね。

ここで23年の歳月の意味を理解させるため、地球から送られてきたビデオメッセージをクーパーが見るシーンが入ります。歓喜と絶望と悲しみと…様々な感情を一気に味わってむせび泣くマコノヒーの芝居は素晴らしいです。しかしこの場面のチルは、大人になった息子トムと娘マーフィを演じている役者のキャスティング自体にとても感動させられました。

大人マーフィを演じているのは、ジェシカ・チャスティン。『ゼロ・ダーク・サーティ』でビン・ラディンを追い詰めた女性CIAエージェントを演じてアカデミー賞主演女優賞候補になった人です。そして大人トムはケイシー・アフレック!! 傑作サスペンス『ゴーン・ベイビー・ゴーン』で主演した渋い若手俳優です。ベン・アフレックの弟。高い声で淡々と語る芝居はとても印象的。この2人の登場は最高にエキサイティングでした。

ここから映画がかなり様変わり。宇宙を冒険するクーパーと、地球に残って父の帰りを待つマーフィが交互に物語を描いていくのです。この構成は大胆で、意外性がありました。マーフィパートに無駄が無かったわけではないですけど。

最初の惑星探査が失敗に終わり、残る選択肢は2つ。残りの燃料を考えるとどちらか一方の惑星にしか行けない。どちらにすべきか? 3人の宇宙飛行士による議論。ここにもしっかりしたドラマがあり、それを引き立てるジレンマを盛り込むノーラン(兄弟)のシナリオワークが光るんですよね。論理が情を上回る冷酷な瞬間。(そしてそれがひっくり返る終盤の展開!!)

1つの諦めを経て2つ目の惑星に到着。どこもかしこも氷で覆われた惑星です。そこで待っている先行チームはキャンプを展開している。生存者はただ一人。天才と評されていたマン博士。コールドスリープ装置の中から覚醒する彼の姿はまさかの…

ここで本当のプライズキャスティングが来るんですけど、なぜここにインパクトがあるかと言うと「マン博士は誰が演じているのか」というポイントにあえて焦点を当てていないからなんですよ。多分。

撮影も編集も、「いよいよこいつが姿を現すぞっっっ!!」と強調しているようには見えません。だからこそのインパクトなんじゃないかと思います。でも正直カメラワークのディテールはそんなに覚えてないからもう1回見たいです。個人的には…マン博士のキャストにはさほど興奮しませんでした。ケイシー・アフレックの方が100倍思い入れあるので。

これまでの展開では、広い意味での自然(あるいは物理法則)と戦い格闘してきた人類(その代表クーパーたち)ですが、この地で対峙するのが一人の人間のエゴなんですね。これもちゃんとそれまでの展開がフリになっている。だからこそ、RHYMESTER宇多丸さんも「2014最高の悪役はインターステラーのあいつ!」と絶賛しちゃってるんですよね。

第二の惑星でクーパーとアメリアは危機に陥り、絶望的な状況に叩き落とされます。その状況を切り抜けるためにクーパーが見せる勇気! 観客にも読み切れていなかった、彼の中にある決意の重さ。やっぱりこういう展開の作り方はものすごく上手いですよ。

ちなみにクーパーの決断はフリやタメがほとんど無いので、すごくかっこ良く見えます。そんな彼でも、魂を揺さぶられて意志が揺らぐ衝撃的な展開がクライマックスに用意されています。この役はマコノヒーじゃないと無理かな。

その頃マーフィは…父親が出発した頃の年齢を追い越し、ブランド教授の元で重力理論の研究を続けていたが、ブランド教授は死の間際に「自分は何十年も前に重力理論を完成させていた」「その結果重力の制御は不可能であるという結論に至っていた」「それを他人に公言できず、研究を続けるフリをしてきた」とマーフィに告白しながら、息を引き取る。

ここは涙を誘う演技力のぶつかり合いが見えつつも、「えぇー! だったらクーパーは、人類はどうなっちゃうのー?」と観客の心を揺さぶるポイントなんですよね。いつまでも物語が落ち着かない、それは立派な演出技術なんですけど、そこで本当に困惑してしまう観客もいたかもしれません。

なんとか生還したクーパーとアメリアはダイナミックな発想で第三の惑星(最後の希望)へ行く手段を確保します。この辺は宇宙物理学者キップ・ソーン氏の最新理論が組み込まれているのでしょう。ここも、理論を理解できるかではなく、そこに介在する強い意思、それを表現している役者の演技力などに注目すれば十分に見どころのあるシーンです。

簡単に言うとブラックホールのそばを通り抜ける事で推進力を得て航行距離を稼ぐという方法。しかしこの手法は「前進するエネルギーを得るため、後ろに誰かを残して行かなければいけない」というデメリットがある。TARSの乗ったドロップシップを犠牲にするという段取りだったが、クーパーも自分の意思でアメリアの乗る母船のために犠牲になり、ブラックホールの中に飲み込まれていく。ここで自己犠牲精神を描くか…。

この映画のプロデューサーにも名を連ねているキップ・ソーン氏はホーキング博士と並び評されるようなガチガチの宇宙物理学者らしく、ブラックホールに飲み込まれたクーパーの視点は、キップ・ソーンの意見を存分に組み込んだ異次元の映像体験が表現されていて凄い。このシーンのためにレンダリングソフトを新たに開発したそうです!! すごすぎて何がなんだかわかりません!!

チルの感想は「なるほど、これは3D映画には出来ないな」という感じでした。とはいえ圧倒されましたよ。そしてこのブラックホールの先で前半の地球シーンの伏線がバッシバシ回収されていくのです。怒涛の展開に頭の中グリングリンかき回されます。

そしてその展開がどこに落ち着くのかというと、とってもエモーショナルな結末と、宇宙の壮大さに人間のイマジネーションは立ち向かうことが出来るんだ!という大胆なメッセージ性なのです。

ハッキリ書くと、この映画、この物語において、人類は完全勝利します。曖昧な希望を提示するのではなく、完全なる勝利なのです。たった一人で第三の惑星へ向かったアメリアさえも救いの手が差し伸べられます。この結末、逆に凄いなあと思いました。どれだけポジティブなんだ! と、ノーランにひれ伏しました。

やっぱりこの映画は凄いですよ。ノーラン兄弟の脚本理論は完成度が高いです。ちゃんと牽引力をキープしているし、牽引力の原動力も次々とフレッシュなものに入れ替えていくところが上手い。巧み。そしてもちろん、ディレクターとしてのクリストファー・ノーランも真面目で素晴らしいです。

予告編の雰囲気だけで読みきれるほどこの映画は浅くない! 演技も良いし映像も圧倒的。ハンス・ジマーの音楽も最高です。今年の映画を語るのに外せない、一本です。まだ見ていない方は映画館へどうぞ! IMAX2Dオススメです!