ジョーカー・ゲーム

ジョーカー・ゲームを見ました。

http://www.jokergame-movie.com/ 

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早速あらすじを追います。

陸軍士官学校」で訓練する兵士たち。その内容は匍匐前進。叱りつける上官。兵士の1人が遅れを取っていると上官が罵声を浴びせる。その兵士をかばう別の兵士。

「こいつは熱があるんです!」

上官は激昂し、発熱兵士を蹴りつける。その姿を見た正義感兵士は上官の前に立ちはだかる。「貴様」というワードが気になる口論の後、正義感は上官を突き飛ばす。

上官はトラックに後頭部をぶつけて即死。正義感兵士(主演・亀梨和也)は軍法会議にかけられ死刑を言い渡される…

処刑場に連れられ「何か言い残すことはあるか?」と問われる亀梨さん。「覚悟はできている。目隠しを取ってくれ」と正義感。銃殺される瞬間、派手な軍服を着た男が現れ、亀梨さんをスパイ育成組織『D機関』にスカウトする…

こういうオープニングを見せられて「なかなかいいじゃん」と思う人間もいれば、「なんだこの導入? クソだな!」と思う人もいるわけです。私は後者です。

兵士の訓練シーンとして、匍匐前進してる様でツラさや理不尽さを表現するって発想が貧困すぎ。何のフレッシュさも無いですよね。滅多にこういうジャンルの映画を見ない亀梨ファンにとってはそういう貧困さって目立たないのかもしれないけど、製作者は映画を知らない人たちじゃないでしょ? 観客をハナからなめてるんですよ。

「熱がある」(だから優しくしてください) …はぁ? 馬鹿じゃないの? そのセリフで何を表現したいの? ディテールへのこだわりが中学生の描くマンガレベル。

訓練途中のペーペーに組み付かれて突き飛ばされただけでうっかり死ぬ上官。亀梨さんが特別に怪力ってわけでもないでしょ? 脚本家は何が描きたいの? 何を表現したいの? 下手すぎる。雑の極み。

序盤のストーリーがそういう流れになるのを許すとしても撮り方が下手糞で、夜間で豪雨というシチュエーションも手伝って主人公が殺人(傷害致死)を犯しましたよ、という流れも分かりづらい。誤って殺してしまった瞬間の「ハッ」とするようなショック感がまったくない。アイドル映画だから出来るだけソフトに描いてるんですかね。

処刑シーンでアップになる亀梨さんは薄く細く整った眉毛がやたらと強調されてるから、普通の映画好きから見ると「リアリティどうでもいいんだね」と思わざるを得ない。ナチュラル太眉な亀梨さんを見たファンが「うわっ」と思うのを避ける方が優先順位的に上なんですね。

私もそこそこ大人なんで、そういう事情を飲み込めないわけじゃないんですけど。期待値のハードルは確実に下がりますよね。「アクション映画に主演する覚悟はできてるけど眉毛に関しては別の話です」という姿勢の大手事務所所属タレント様に期待しろって言われても引いちゃう。

このタイミングでおさらいしたいのが、製作陣の顔ぶれ。

監督は小規模作品で適度に評価を積み重ねてきた入江悠。代表作は2009年『SR サイタマノラッパー』ですかね。サイタマノラッパーは個人的にハマりませんでしたけど、ディレクターとしての資質は一定の評価を与えたい作品でした。

そんな入江監督が初の大作映画に起用されたと聞いて期待して見に行ったんですよ。原作はミステリーとしての評価も高い小説だし、無難かそれ以上に仕上げてくれるだろうと思っていたんです。しかし私は事前にもっと予習しておくべきでした

ジョーカー・ゲームの脚本家は渡辺雄介。この人の名前をもっと日本人は知っておくべきなのです。

彼の書いた映画脚本は、漫画原作の『20世紀少年』漫画原作の『GANTZ』アニメ原作の『ガッチャマン韓国映画のリメイク『MONSTERZ』…他にも無くはないですが、元ネタがある作品ばかり。そしてその全てが酷評されています。どれひとつ見たことはありませんが、酷評っぷりは伝わってます。

そんな彼が手がけた今作が、いい脚本になってる可能性は限りなく低いのです。邦画もちゃんと適度に観ている人なら彼の名前だけでこの地雷を回避できた事でしょう。

それ以前にこの映画、配給こそ東宝とはいえ製作は日本テレビなんですよ。私が日テレ映画に被害を被ったのは『カイジ』だけですけど、あれもひどかった。テレビ脚本と映画脚本はまったく別なんです。

この辺の背景を考慮せず、『2月1日に見るべき映画はこれだっ!』なんて記事をアップしてしまったのは本当に申し訳ないです。うちのblogに影響されて見に行った人は一人もいないとは思うんですが、20世紀少年ガッチャマンの脚本家が書いた映画になんで金を払わないといけないんだよ!って話。

オープニング・タイトル後のストーリーもさっぱりでしたね。

そもそも「死刑を取り消してやるからスパイになれ」と上司に命じられて生きがいを見出す主人公って魅力ありますか? もっと泥臭い背景とか屈辱的な過去とかを描いてくれないとアイドルが主演してるツルツル野郎に感情移入できないですよ。

主人公の資質である「抜群の記憶力」を試す描写も、信じられないくらい記憶力が良い男という描き方が単調。D機関にやって来た瞬間から既にその才能を開花させてるし、そこには過去もないし成長もない。ロジックもない。

記憶力の良い主人公って意味では香港映画『天使の眼、野獣の街』やそのリメイク『監視者たち』で丁寧かつドラマチックな描き方に魅せられてきたので、それと比較しちゃうと今作はイメージが貧困すぎ。先輩に圧倒的な能力を見せつけられて自信を揺らがせる、そこから奮起することで先輩を驚かせるほどの成長を見せる、とかさあ…

D機関での訓練シーンはオープニングほどのグダグダ感はなくて。銃の分解や早着替えや、あとなんだっけ、をワンカット風長回し風で描いてます。数少ない見どころの1つです。流れとかフリとか関係なしに「カッコいいことやって」と言われたら盛れる監督なんでしょうね。そういった粉飾シーンの繰り返しで興奮できるのは主演アイドルのファン以外にいないと思いますけど。

D機関シーンの最後、小出恵介演じるトンパチキャラと主人公がケンカするんですが、無意味に主人公を挑発する訓練生たち、それに対してふつーにキレる主人公という流れもダサい。主人公にポーカーでの勝負を仕掛けておいて、プライドを賭けろとか言いながら主人公の手札を後ろから覗いてサインを送り合う訓練生たち。

自分以外の人間に手札を見せながらポーカーをプレイする馬鹿=主人公にどうやって同情すればいいんでしょうね? 手札はテーブルに伏せながらカードの端をチラッと見るのが本気で勝負するポーカーの常識。脚本家と監督はポーカーのシーンが含まれる映画を見たことないのかしら?

こんなお粗末な描写に「卑怯なやつらめ!」と感じることが出来るのは馬鹿だけですよ。つまり今作は馬鹿に向けた映画なんですよ。監督様はこういうディテールを詰める必要がないと判断してるんだから。

小出さんは主人公に銃を向けて発射し、D機関をクビになります。そんなキャラに使ってるのが主役になりきれない半端イケメン俳優だから後で再登場するのも意外性ゼロでーす。

訓練所を去る小出に亀梨が別れの言葉をかけるんですが、それに対する回答が「そのやさしさがいつかアダとなるぞ…」なんですけど、こういうセリフひとつ取ってもひねりがなくて幼稚。いつかどこかで見た聞いたセリフをそのまんまペーストする中学生イズムを感じるんですよね。

主人公はいよいよ最初の密命を受けるのですが、「新型爆弾の設計図をインドネシアのアメリカ大使館から盗み出せ」というお仕事。

いまさら「新型爆弾」とか言われてもね…

爆弾そのものの行方を描くドラマなら起爆するしないというドラマになりますけど、原爆の設計図がどうなるかなんて興味持てないし、それによって映画内の国のパワーバランスが変わるとも思えないし。そんな覚悟も技量もあるわけないし。

アメリカ大使館への潜入のために主人公が取ったアプローチは、「大使のチェス友達になる」です。大使はチェス大好きなんですが、強い相手に出会えず不満だったんですね。そこに現れた日本人のチェス能力に満足し、大使館に招き入れるほど気に入っちゃうんです。

…なにこれ? ウソでしょ? 知的ゲームであるチェスというモチーフがからめば中学生もビックリな痴的発想を相殺できるとでも思ってるんですかね?

しかもこのアメリカ大使、新型爆弾設計図を手中に収めたことで任期を満了する前に帰国するそうな。だから、この大使がアメリカに帰る前に設計図を盗めって。

設計図だけアメリカに送れば?

二千歩譲ってそういう緊張状態にある大使が、チェス強いだけのアジア人を大使館にほいほい招き入れるか?

矛盾がどうこうっていうより、アメリカ大使というキャラの背景(緊張)とキャラ造形(弛緩しきってる)が乖離しているのが大問題。意識低いんですよ。そんなんで緊張感を高められるわけがない。脚本の段階で客をなめてるんですよ。おまえの脳味噌は中学生かもしれないけど観客は中学生だけじゃないの!

うまく取り行った主人公は大使館に侵入する準備を進めるんですけど、日本陸軍の部隊がアメリカ大使館に突入して設計図を強奪しようとするからさあ大変。「大使館に突入」? そうです。目を疑った方もいるかもしれませんが、マジでそんな展開なんです。私は映画館で口あんぐりでした。

突入は主人公と共に密命を受けていた仲間によって防がれるんですけど、大使館正面からまっすぐ突き進んでいた武装兵を、最後尾から静かに一人ずつ殺して全滅させる描写がアホまるだし。D機関すごーーーーーーーーーーーい! そんな描写で盛り上がると思ってる入江悠監督もすごーーーーーーーーーーーーーい!!

無駄の極致である武装兵突入はさておき、主人公による大使館侵入描写も緊張感ゼロ!! いよいよ入江悠という監督の能力に失格の烙印を押すのにためらいが無くなります。

大使館にいるたった1人の見張りはフラーっと持ち場を離れてくれるし、見つかる見つからないというスリル皆無のまま主人公は館内の書斎にたどり着きます。

ハリウッドに比べれば安い製作費なんでしょうけど、こういうシーンでなんのアイディアもなくぬぼーっと撮ってるディレクターにどうやって期待したらいいんですかね? どこぞに潜入して盗み出す映画なんて過去に星の数ほどあるでしょ。そういう映画史に食い込むべく努力しようという気概が皆無! 映画なめんな!!

んでこの大使館には素性のしれないアジア女がメイドとして働いてるんですがそれが深田恭子主人公が潜入しようとしてるその夜に大使はメイド深田をレイプしようとしてます

…くだらなすぎて句読点入れるのも面倒ですよ。主人公の介入でレイプは防がれるわけですが、主人公がヒロインにほれる流れもグダグダだし理由は単に「やりたい」って要素しか感じられないし。やみくもにちぎった粘土を壁に投げつけるのと同じくらいのテキトーな脚本に唖然。

とにかく、この最初のスパイミッションのスカスカ感には本当にビックリしました。

最初の侵入で設計図は入手できなかったのですが、2度目の泥棒ミッションは大使の退任パーティの最中に行われます。直前のセリフ「だったら設計図はどこにあるんだ?」「…チェス。」じゃねえよ。だっせえ。

パーティで大使がスピーチをしている途中でスッと会場を抜けだして書斎に向かう主人公。目立つ!目立つよ!あんためちゃめちゃ目立ってるよ!

廊下に人感センサーを設置してから書斎を漁る主人公なんですが、センサーは役に立たず職員に見つかってしまいます。言い訳の聞かない状態で見つかってるくせに「忘れ物しちゃって…」とかショボい言い訳してる姿もカッコ悪いし、職員をスリーパーホールドで気絶させるのもカッコ悪い。

続いて登場したジョン・マルコヴィッチもどきの長髪悪役野郎と主人公が格闘するのですが、このアクションもわかりにくい。コンセプトが無いからどう見せたいかという意図もない。スピード感があればオッケー、と。偽マルコヴィッチもスパイなんですけど、敵キャラだからスパイらしさゼロでわかりやすい悪役顔。じゃないと観客は分からないと思ってるんでしょうね。

スパイらしいシーン第2弾もこの通りグダグダ。見れば見るほどスパイアクション映画をなめた姿勢が鼻についてウンザリでしたよ。

設計図を入手したところでヒロインと主人公が急接近。必然性のないキスシーン・ラブシーンの後でヒロインが本性を現し、主人公から設計図を盗みます。SEXには至らずキスで終わったにも関わらずぼーっとしている主人公。ヒロインが去ってから5秒後に設計図がないことに気付き、追いかけます。

ヒロインを追う主人公、その主人公を追うイギリスのスパイたちが東南アジアらしい雑多な町中をチェイスするシーン、そこそこ面白いんです。そこそこフレッシュなんです。でもやっぱり、そこに至る前段階がダメすぎる。

キスしてやる気まんまんの男を寸止め状態のまま別れたら、普通「なんでだよーやらせてよー」って感情が持ち上がるでしょう。SEXして放心状態の男から設計図を盗むのは容易だろうけど、そういう展開は亀梨×深田のカップルじゃ描けないんでしょうね。そのくせ馬鹿を喜ばせるためのエロシーンは入れようとする。くだらねえ。

シーツにくるまった男女がうごめいてるだけで勃起するのはエロ想像力が旺盛な中学生だけです!!

チェイスシーンで主人公が逃げながら物理的に不可能と思われる早着替えを見せる描写があります。ありえない事をやってみせたところで「見たことない映像だ」と言われてもバカバカしいだけなんですけど、瞬間的に着替えても追っ手の速さはまったく変わらないから着替える意味ないんですよ。

こういう場面でも「圧倒的な記憶力を駆使して近道して深田に追い付く」なり「うまく追跡者をまく」って描き方してくれれば主人公のキャラも強調されるじゃないですか。でもそうやってブラッシュアップさせようという発想は皆無で。アイドルがアクション頑張りましたっていう映像の方が重要視されてるんですよ。あーくだらない。

結果的にヒロインはイギリススパイ部隊につかまり、主人公は仲間と合流するのですが、「やっぱり深田ちゃんを見捨てられない!」と駆け寄った瞬間に仲間が乗ってた車が大爆発。爆風で吹っ飛んだ主人公もイギリスにつかまります。

爆破でオチるのは悪くないんですけど、この場面で死んだ2人の仲間がクライマックス後に「実は生きてたんだよーん」「耐火シートのおかげで助かったのさ」みたいなことを言いながら再登場した時は自分の脳細胞が1万個ほど死んだ音が聴こえましたね!

なんでそういうくだらない蛇足で自分の映画を汚すのか。続編やりたいなら似たようなキャラクター作ればいいじゃん! 新キャラをどうやって生み出すのか腕の見せどころじゃん! そういう発想が無いところを見ると「こいつら」にクリエイティビティを期待するのは無駄だなと思いますね。

イギリススパイ組織(MI-6ってことか)に捕らえられたヒロインと主人公は拷問を受けます。この拷問もつまんねえの。亀梨さんが上半身ハダカになってるだけで喜ぶ観客を想定してるから、それ以上「ひどいこと」をしようとしないんです。「もしこんなことをされたらきっと吐いてしまうだろうな」と観客に想像させてこその拷問描写でしょ? 単なる記号としての拷問だからなんのスリルもない。

深田恭子「シャツを着たままでムチ打ち」という前代未聞の親切オイタを受けていて、ムチを受けている時の芝居も単調。そういうところで本気を見せるのが本当の女優じゃないの? もう30歳超えてるんだから下着姿をさらすくらいの覚悟見せてくれよ。こんなん姿勢じゃホリプロから真の女優は出てこないですね。ガッカリでした。

MI-6トップの幹部っぽいやつは車椅子に乗ってるんですけど、自分で歩けないやつが外国来て何をやってるんですかね? んでそいつがパイプで喫煙してるんですけど煙がまったく見えないから吸ってるように見えない。リハーサルですか? くだらねえ。

主人公は「二重スパイになるから助けてくれ!」と懇願し、MI-6はそれを認めます。認めちゃうの! そのまま牢獄に移されて粗末な食事を出されるんですけど、その瞬間「敵兵がスキだらけ」という幸運のおかげで脱出することができます。脱出のきっかけもグダグダだし、緊張感なし。

建物を逃げる主人公。廊下に貼ってある地図を破り取って逃走するのですが、その地図は罠として貼ってあったニセモノであり、主人公は袋小路に追い込まれてしまいます。

ここで「主人公は記憶力が良い」という伏線が完全に死にます。見たか見てないかというくらいの一瞬で見取り図の1つや2つはしっかり記憶するのが主人公が主人公たりえるゆえんじゃなかったの? こういう「ハズシ」によって強調されるのは製作陣の意識の低さだけ。クライマックスで主人公の間抜けさを強調してどうするの?

袋小路にある部屋に追い込まれた主人公、その部屋のドアを開ける敵兵。己に銃を突きつけている主人公をじっと見つめる敵兵。「(この部屋には)いません!」と言ってドアを閉める。

この敵兵はD機関が潜入させていたスパイ、その名も「スリーパー」! いざという時にD機関の仲間を救う、切り札的な存在である!

サスペンス性を含んだ脚本を書く上で反則とされる後出しじゃんけんパターンを説明するのにこれほどピッタリなご都合主義展開はありません。「実はスリーパーがいたんだよーん」とタネ明かしするこの場面は、この映画で一番くだらない瞬間です。

自由の身になった主人公は脱出を思いとどまり、拷問されていたヒロインの救出のため引き返します。この「逃げるか」「助けるか」のジレンマもショボいですね。ヒロインにはだまされっぱなしのクセにそれでも助ける理由は「やりたいから」でしょ? くだらない。殺し合いしてたギャングのボスが変態ホモ野郎にレイプされるのを助けた『パルプ・フィクション』のブッチのジレンマを見習えっつーの!

東南アジアにある立派なアジト(ありえねえよ)になぜか存在する火薬庫から火薬を盗み、撒きながら建物内を逃走して行く主人公。そのまま最上階に到達するとそこは時計台の頂上。追っ手に追い詰められた主人公がジッポーライターを建物内に投げ込むと、カランコロンカランコロンと転げ落ちて火薬ロードの先端に到達。見事に着火。

しかし火薬ロードは途中で途切れていたため爆発が起きない! どうする!

…そこに舞い降りてきたのが深田恭子の写真。中盤で撮影していた何気ないアイテムが、火薬ロードの途切れた部分にフワリと着地し、発火。そのまま導火線のように炎は走っていき、火薬庫大爆発。敵のボスも炎上。

火災になった建物の頂上で立ち往生する主人公とヒロインは、D機関の仲間(小出恵介)の運転するトラックの荷台にダイブして脱出成功! めでたしめでたし。

偶然×偶然によって引き起こされた逆転劇じゃ主人公のキャラクターは引き立たないし、写真というアイテムが奇跡的な確率で作用するのを伏線の回収とは言いたくないし、火薬で大爆発なんてスパイとして絶対選択すべきじゃない行動だし。クライマックスとしてこれほどテキトーな結末を見せられるとは思いませんでした。

その後は大団円。除隊した仲間も戻ってきた。死んだはずの仲間も生きてた。爆弾設計図入手した。言うことなし!主人公にとっては上々の成果です。

見てるこっちは何も得られず、色んなものを失った2時間でしたけどね。

「爆発あったけど生きてた仲間」も清々しいくらいの「後出しじゃんけん」だし、そのゆるい雰囲気のまま「次回作にも期待してくれよなっ!」みたいな終わり方をスクリーンで見せられた瞬間に私がメモに残したのがこちらの文字列です。

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不満だらけの映画だったのに「短いなあ。もう終わり? ウソだろ?」と思ったんですよ。ハイテンポで振り回される感じは、一種のジェットコースタームービーと言っても良いかもですが、ジェットコースターに物語的な起伏を求める人はいないので、そんな形容詞を付けられて喜んでるようじゃこの映画の製作陣は終わってるなあと思います。

渡辺雄介脚本の、どうあがいても消せない臭みと中学生レベルの構成力を初めて体感し、身も心も凍ってしまいました。これほどの駄作をコンスタントに生み出している人間が大作映画に携わり続けられる日本映画界、恐るべしですね! 邦画の闇の深さはまだまだ見通すことができません。

監督・入江悠にもあきれ果てました。映画秘宝インタビューで「『裏切りのサーカス』『ベルリンファイル』みたいなスパイ映画はインディーズでも撮れる。だから今回は『ミッション・インポッシブル』を目指しました」とか語ってたんですよ!? ベルリンファイルと今作は月とスッポン。成熟した映画ファンの観賞にも耐えうる上質でスリリングなアクション映画に対し、日本がぶちあげた今作は子供だましのアイドル接待映画でした。

今作を見て確信しましたよ。堤幸彦の後継者が現れたな、と。堤のクソ映画『サイレン ~FORBIDDEN SIREN~』を見た時に匹敵する怒りが沸き起こりましたからね。

主演の亀梨和也さんについては悪い感情持ちませんでしたよ。頑張ってた! 主人公としてのスケール感やカッコ良さを引き出すのは脚本家や監督の仕事であり、亀梨さんは素直に演じてたと思います。

脚本を重視するレビューを心がけている私としては、この作品ほど憎悪に値する映画はありません。渡辺雄介はドラマだけやってろ! 謙虚に脚本の基礎から学び直してこい! 無駄金使わせるな!

以上でーす。