群盗

群盗、見ました。

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『チェイサー』『哀しき獣』『ベルリン・ファイル』でお馴染み、ハ・ジョンウが主演した時代劇アクション。悪役として君臨するは、『超能力者』『チョン・ウチ 時空道士』の色男カン・ドンウォン

まず意外だったのが、主人公であるトルムチが物語序盤は単なる屠畜人として登場し、カリスマ性のカケラも感じさせないダメキャラであること。

物語序章はトルムチでなく、智異山の群盗団のメインキャラクターをテンポよく描いていきます。義賊集団としてのチーム感も最高だし、それぞれが高い戦闘力を持ちながらもそれぞれが個性豊かでマンガのようなキャラ造形。止め絵でキャラの名前がテロップでドーン!とかやられちゃうといやがおうにも高まります。「生臭坊主(バーン!)」てw

第二章では今作のヴィラン(悪役)であるユンの背景が描かれていきます。ユンに関しては主人公よりも掘り下げて描かれていて、強さの理由、歪んだ人間性の理由がしっかりがっつり語られていくのです。これはとても良かった。

第三章では屠畜人トルムチの生活が描かれます。近所の子供をだましてしょぼい金品をまきあげる最下層な生活。トルムチの妹として、今最も注目すべき若手女優ハン・イェリが登場。

トルムチの周辺を描くにあたって、本当に汚らしい身なりと劣悪な生活環境を描いているのが良かったです。韓国時代劇ってキレイに着飾った人々ばかり目につくから主人公的存在が最初からボロボロってところが興味深い。

非情なる統治者ユンは、背景がまっさらなトルムチに、とある寺院に住んでいる女の殺害を依頼。大金に目がくらんだトルムチはそれを請け負ってしまいます。しかし侵入の際に気付かれて逃走。報復と証拠隠滅のために家に火を付けられ、トルムチは母と妹を失います。

単身でユンの屋敷へ乗り込むものの、圧倒的な戦闘力に圧倒されて敗北。しかし国内最大規模の山賊=群盗集団に拾われて、家族としての契りを交わします。火事で火傷を負ったトルムチは頭髪を剃り上げてスキンヘッドに。群盗の一員となったトルムチ改め「トチ(倒置)」の復讐が始まるわけです。

ユンに喧嘩を売って返り討ちにあうシーンなど、ハ・ジョンウの芝居圧力が段違いの輝きを見せており、やはり役者としての覚悟が違うなと感じさせてくれます。

そのまま群盗になって3年が経過するのですが、なぜ「トチ」が群盗の中でもすぐ頭角を現したのかという部分の描写が物足りなかったです。復讐心の根源はしっかり見せてくれましたが、そこから一気に強くなっていく理由が見えなかった。

屠畜人だけに動物の急所をよく分かっていて、肉体の構造を理解した上で戦うから強いとか、そういうロジックがあったらなお良かったなと思いました。途中で早合点したチルは、「屠畜人という設定が戦闘力につながるのか!なるほどうまいな!」なんて思ったんですけどね。

元・屠畜人だけに、二刀流の肉切り包丁で戦う様は今まで見たことのない斬新なアイディアなんですけど、強くなろうとしてもがき苦しむ過程はもっと見せてほしかったなあ。その辺りに対する不満がのちのちの感動不発につながってしまいました。

トチが属する群盗団はユンに取り入って内部工作をし、外堀りを埋めてから謀反/一揆を企てようとするのですが、この工作活動の過程も、騙し合いというには気が引ける、程度の低い駆け引きに終始しちゃってて。

これだけ綿密な計画が少しのほころびで崩壊してしまった!みたいなサスペンス性も薄くなっちゃってるんですよ。ちょっと強引かな。

作戦失敗によって群盗団のボスが殺され、生臭坊主は拷問にかけられ、アジトの場所がバレてしまう。この辺はかなり面白いんですけどね。

ユンの軍勢が群盗団アジトに襲撃するシーンを見ていたら日本映画『十三人の刺客』を思い出しました。ユンという強烈なヒールキャラも、よくよく見てみたら十三人の刺客における稲垣吾郎のキャラクター(変態ドS大名)とすごく似ているし。

終盤の展開はかなり熱いし、2度の敗北から再起するトチの情念はカッコいいんですけど、残念ながらトチの存在感が終盤までほとんど無いんですよ。

ユンに顔が割れてるだけにトチが地味な活動に収まっているのは仕方ないんですけど、群盗団の他の面子が濃すぎるので、クライマックスのトチがちょっと浮いてるような感じがしました。

クライマックス、トチが持ち出すのは獅子の顔面をモチーフにしたガトリングガン。クランクをグリングリン回すことで弾丸を発射しまくる、西部劇ではお馴染みのド派手兵器です。いつ作ったのか、どこからその発想が出てきたのかが全く分からないのですが、とりあえず製作者は「お待たせ!こいつで盛り上がってくれよな!」とばりに登場させてきます。

正直この流れでガトリングガン出されても…違和感の方が大きかった。トチらしい泥臭い作戦で突撃する、みたいな方が気分も上がりました。

雑魚を一掃し、トチとユンの対決になりますが、トチの宿敵であるユンのキャラも強烈なので、「いよいよこの2人が対峙するぞ!」という興奮もいまひとつ。

ユンの「己の運命のために命をかけたものはいるか? その者だけが私にかかってこい」というセリフは、前半から中盤にかけて描かれたユンの背景が伏線として効いてて、燃えるものがありました。

ラストバトルは竹林にて行われます。刀と肉切り包丁の対決は見どころもいっぱい。

しかし、トチが群盗団に入った直後に竹林で特訓していたシーンがあったのは承知の上で、「竹林という場所だからトチが勝利した」というロジックがいまいち納得できなかったです。

勝敗のロジックという意味では「トチには仲間がいたから勝てた」とも捉えられるのですが、決着の付け方はもうひとつ練り込むことが出来たんじゃないかと思いました。

悪役の描き方や、主人公の変貌を描く構成などはとても面白かったしダイナミックで見応えがあって十分に楽しめましたが、上記の通り「ここをこうしてくれたらもっと燃えた!」という点がチラホラ見受けられて惜しいなと感じた作品でした。

ハ・ジョンウとカン・ドンウォンというスターが演技面でもがっつり戦ってくれる時代劇アクション、やはり韓国映画界は人材豊富だなと思います。5月に熱いアクション映画が見たいなら『群盗』で決まり!